転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


143 ゲームの魔法と意外な使い方



「よいか、ペソラ嬢。それにライラも、これから話す事は他言無用じゃぞ」

「えっ!?」

 さっきまでニコニコしてたロルフさんが、まじめな顔でこんな話しを始めたもんだからペソラさんはびっくり。

 そしてそれを横で見てた僕も一緒になってびっくりして、ロルフさんを見上げたんだ。

「事はルディーン君の安全に関わる事じゃからのぉ。迂闊なギルマスが話してしもうたから説明するが、本来なら知らぬほうが良い事なのじゃ。じゃが知ってしまった以上、詳細を話して口止めをせねばならん」

 そしたらロルフさんがこんな事を言い出したもんだから、僕は二度びっくり。

「申し訳ありませんでした、伯爵。確かにこの話はペソラにするべきではありませんでしたね。ルディーン君もごめんなさい」

 その上バーリマンさんまでこんな事を言い出したもんだから、僕は何のことを言われてるのか解らずおろおろしちゃったんだ。

 でも僕以上に困っちゃったのがペソラさん。

 そりゃそうだよね。だって今まではただお喋りをしてただけなのに、急にこんな雰囲気になるなんて思うわけ無いもん。

 それでもなんとかまじめな顔を作って、ペソラさんはロルフさんのお話を待ったんだ。

「まぁ、事が事だけに少々きつめな口調になってしもうたが、誰にも話さぬと約束するのならばそれ程緊張する必要も無い。それにルディーン君はこれからも錬金術ギルドに出入りをするじゃろうから、いずれは話さねばならぬと思ってはおったのじゃ。これもいい機会じゃろうて」

 ところがそんなペソラさんに、ロルフさんは笑顔を浮かべてそう言ったんだよね。

 なんだぁ。それならあんな風に怖い顔しなくても良かったのに。

 さっきの雰囲気によっぽど緊張したのか、ペソラさん、ロルフさんのその笑顔を見て力が抜けたみたいにへたり込んじゃったよ。

 それに僕は僕で、怖い顔してロルフさんが何を言い出すんだろうって思ってたからどきどきしてたんだ。

 でも良かった。これなら変な話じゃないみたいだね。


「さて。先ほども言ったが、これはルディーン君の安全に関わる事じゃからのぉ、皆もその事だけは心に留めておくのじゃぞ」

 ロルフさんはそう前置きをしてから、お話を始めたんだ。

 その内容と言うのは僕が自分のステータスを見る事ができて、その中には一般には知られていない魔法が書かれたページがあったということなんだ。

「詳しい話はできんのじゃが、実はルディーン君のステータスに載っている魔法はどうやら魔道士たちが研究し、発見してきた魔法とは少々系統が異なるようなのじゃ」

「系統が異なる、ですか?」

「うむ。なんと言うかのぉ、生み出された経緯と言うか、魔法自体に求めている物が違うような気がするのじゃよ」

 ロルフさんが言うには、この世界の魔法ってどっちかって言うと生活が便利になったり、人の力だけじゃ作るのが大変な物を楽にしたりするような魔法が多いんだって。

「前にルディーン君に聞いた氷の魔法なのじゃが、それは炎の攻撃から身を守ると言うただ一つの効果のために生み出された魔法のようなのじゃが、わしの知る限りそのような限定的な防御魔法を研究するようなものはおらんかったはずじゃ」

「何故です? なんとなく便利な魔法に聞こえるから、誰かが研究してそうですけど」

「うむ。それはな、攻撃を防ぐ魔法を考えようとすると、普通は炎しか防げ無い魔法よりも色々な攻撃を防ぐことのできる魔法を求めるからなんじゃよ」

 これはなんとなく解る気がする。

 確かに物理攻撃を防ぐプロテクションや魔法を防ぐマジックプロテクションを使ったほうが、普通に考えたらいいって思うもんね。

「なるほど。確かにそうですね」

「うむ。じゃが、ルディーン君の魔法には一つの属性のみを防ぐ事に特化した魔法があった。と言う事は、そのような攻撃を防がねばならぬ場面があると考えたものが生み出したとも言えるのじゃよ」

「そうなんですか。魔法にも色々あるんですね」

 確かにその通りなんだよね。

 だって僕のステータスに出てる魔法は、元はゲームであるドラゴン&マジック・オンラインで使われてた魔法なんだから。

 ゲームの世界ではいろんなとこを旅するし、いろんなボスモンスターとも戦う。だからいろんな地域やそれぞれのボスに対応した魔法を使う必要があって、こんな魔法を使えるようになってるんだって僕は思うんだ。

 うん、そこまでは解ったよ。でもさ、何でそれが他の人たちに僕の魔法を広めちゃいけないって話になるんだろう?

 そんな疑問を持ったのは僕だけじゃなかったみたいで、横で聞いていたストールさんがロルフさんに質問したんだ。

「系統が違うと言うのは解りました。ですが、防御の魔法が事細かく分かれているからと言って、それがルディーン様の安全とどうかかわって来るのでしょうか?

「うむ。これはわしの想像なのじゃが、ルディーン君はやがて一度に多くの魔物を巻き込むような魔法を使えるようになるのではないかと考えておるのじゃよ」

 この話を聞いた僕は物凄くびっくりしたんだよね。だって、まるで範囲魔法が存在しないみたいな言い方だったんだもん。

「えっ! ロルフさん。もしかしてこの世界では範囲攻撃魔法は誰も使わないの?」

「うむ。一時期は研究されたようじゃが、戦争ではとても使えぬと判断されて放棄されたようじゃ」 

 ロルフさんが言うには一応簡単なのは生み出されたみたいなんだけど、できた魔法はみんな自分を中心に発動したもんだから味方を巻き込んじゃったり、相手が近づいてこずに遠くから魔法使いが弓で攻撃されたりしちゃうから使えないねって話になったんだってさ。

 実際、最初の実験の時は本当に周りを巻き込んじゃって、大変なことになったらしいんだ。

 う〜ん、そう言えばドラゴン&マジック・オンラインの頃は攻撃魔法を撃っても自分の仲間にはダメージは入らなかったっけ。

 だからそんな範囲魔法でも平気で使えたけど、味方も一緒に巻き込まれるなら危なくってそんなの使えないよね。

「そもそも魔法が使えるその殆どが貴族や裕福な家庭の物じゃからのぉ。ただでさえ戦場に出れば狙われると言うのに、のこのこと1人敵兵の中へ突っ込んで行って魔法を撃つなど、それこそ自殺行為ではないか。じゃから、そのような意味の無い魔法を研究しても仕方が無いとなったわけじゃ」

 この説明には僕も周りのみんなも納得。

 でも、この話はここで終わりじゃないんだ。だって範囲魔法が使えないっていうのなら、僕のステータス画面に範囲魔法が出てきても使えないって事だもん。

「じゃが、ルディーン君の魔法が加わるとなると、状況は一変するのじゃ」

 ロルフさんがそう言うとバーリマンさんがその理由に思い当たってみたいで、真剣な顔をして口を開いた。

「なるほど。炎から身を守る魔法ですね」

「そうじゃ。魔物の中には炎に耐性があるものもおってのぉ、その魔物の皮で作った防具は炎のダメージを減らす事ができるのじゃ。そしてその防具を兵に着せ、なおかつルディーン君の炎から身を守る魔法をかけてやれば、たとえ近くで炎の範囲魔法を使ったところでたいした怪我にはならんじゃろう」

 なるほど。味方が巻き込まれてもダメージを負わないなら、魔法使いを中心にして守りながら相手に突っ込んでいって範囲魔法を撃てば相手だけに大ダメージを与えられるってことか。

 なら確かに僕の魔法があれば、範囲魔法が戦争でも使える魔法になっちゃうね。

「だからのぉ。軽々しくルディーン君の魔法を広める訳にはいかんのじゃ。一度どんな魔法があるか聞いて、それを精査してからでなければ、ルディーン君存在自体がこの世界の安寧を覆す存在になりかねないからの」

「そうですね。今の帝国は他国を侵略するような愚考に走る事はありませんが将来は解りませんし、バスクノーグ王国やリンドノーグ共和国ならばその魔法、喉から手が出るほど欲しいでしょうね」

 バーリマンさんが言うにはアトルナジア帝国のお隣には分裂して二つになった国があって、そこは今もよく小競り合いをしてるんだって。

 そんなとこにもしこの魔法が伝わったら、もっと大きな戦争になりかねないから絶対に秘密にしなきゃいけないらしいんだ。

「と言うわけじゃ。解ったかなペソラ嬢。じゃからルディーン君の魔法が伝われば属性魔石を作れるものが増えると解っていても、けしてこの情報を広める訳にはいかぬと言う訳なのじゃよ」

「そうですね。もし広まれば多くの人の命が危険に晒されると言うのなら、広めるべきではないと思います」

 こうして僕の魔法は、絶対他の人に教えちゃだめって事になったんだ。

 ところで遠くに飛ばす範囲魔法もあるんだけど……これってロルフさんに話したほうがいいのかなぁ?



 何故この世界で遠くに飛ばす範囲魔法が無いかと言うと、それは魔法の呪文に理由があります。

 10レベルのルディーン君が使える魔法で、遠くに飛ばせる範囲魔法といえばウォーター・スプラッシュがあります。

 直訳すると水しぶきとか水が跳ねるなのでこの世界の呪文になってもおかしくないのすが、これって普通攻撃魔法とは思わないですよね。

 ではこの世界のやり方で魔法を探すとした場合、広範囲にダメージを与えそうな言葉と言えばバースト(破裂)とかエクスプローション(爆発)、エクスペンド(広げる)等ですが、この手の物は飛ばすのではなくその場で起こる現象です。

 この様な理由から、範囲魔法は術者を中心に発動する物だと考えられていると言う訳です。


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